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一瞬にして表情を強ばらせた彼を見て、悪いことをしたなと思う。 特に考えなしに言った言葉だったけれど。 (勘違いしてる、かな…?) 綺麗な女の人を彼女だと紹介される想像でもしているに違いない。 誤解を解こうと口を開きかけて、やめた。 自分で言うのもどうかと思うが、あまり執着しない気分屋の俺がここまで拘っている。その自覚が全くない彼に、このぐらいは意趣返しさせてもらってもいいだろう。 (…まあ、綺麗っていう点では間違ってないけど) 「ごめーん!お待たせ!」 スパン!と襖が開いて、大袈裟なくらいに肩を揺らす楓くんが面白い。 「遅いよ、リンさん」 「これでも急いで来たのに、全くもう…」 ぶつくさ言いながらも俺の横に座って、まじまじと正面の彼を眺めた。 「あ…!」 突然、小さく声を上げた楓くんは思い出したらしい。 「交差点で…」 言われたリンさんは首を傾げてこちらに視線を送ってくる。それもそのはず。あれだけ酔っていれば記憶が飛んでいてもおかしくはない。 「…ほら、俺が店休んだ時の」 しばらく考える素振りを見せた後、ぽんと手を打った。激しく頷きながら何故か楓くんに握手を求めて、半ば強引に掴んだ手を上下に振り回す。 「その節は大変ご迷惑をお掛けして…!ほら、見ての通りアタシって戸籍上は男だから!安心してちょうだい、ね?」 楓くん、納得してませんって顔してるよ…リンさん。 どこかちぐはぐな様子を眺めながら、今日は賑やかな飲み会になりそうだとぼんやり考えた。

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