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115.
一瞬にして表情を強ばらせた彼を見て、悪いことをしたなと思う。
特に考えなしに言った言葉だったけれど。
(勘違いしてる、かな…?)
綺麗な女の人を彼女だと紹介される想像でもしているに違いない。
誤解を解こうと口を開きかけて、やめた。
自分で言うのもどうかと思うが、あまり執着しない気分屋の俺がここまで拘っている。その自覚が全くない彼に、このぐらいは意趣返しさせてもらってもいいだろう。
(…まあ、綺麗っていう点では間違ってないけど)
「ごめーん!お待たせ!」
スパン!と襖が開いて、大袈裟なくらいに肩を揺らす楓くんが面白い。
「遅いよ、リンさん」
「これでも急いで来たのに、全くもう…」
ぶつくさ言いながらも俺の横に座って、まじまじと正面の彼を眺めた。
「あ…!」
突然、小さく声を上げた楓くんは思い出したらしい。
「交差点で…」
言われたリンさんは首を傾げてこちらに視線を送ってくる。それもそのはず。あれだけ酔っていれば記憶が飛んでいてもおかしくはない。
「…ほら、俺が店休んだ時の」
しばらく考える素振りを見せた後、ぽんと手を打った。激しく頷きながら何故か楓くんに握手を求めて、半ば強引に掴んだ手を上下に振り回す。
「その節は大変ご迷惑をお掛けして…!ほら、見ての通りアタシって戸籍上は男だから!安心してちょうだい、ね?」
楓くん、納得してませんって顔してるよ…リンさん。
どこかちぐはぐな様子を眺めながら、今日は賑やかな飲み会になりそうだとぼんやり考えた。
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