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119.
楓くんたっての希望で、今日は水族館へ。休日のせいか人もそれなりに多い。
「すっごい楽しみです…!」
隣で目を輝かせる彼の頭を撫でながら思う。
本当に純粋なんだな、と。
案の定チケット代で一揉めしたけれど、そこは俺が誘ったからと言いくるめて。
薄暗く、ひんやりした館内。訪れるのは久しぶりだ。
「取りあえず順路を回りますか?あっ、お昼の後にイルカショー見たいです!」
彼の手元を覗き込んで同意した。
ブラックライトと発光サンゴの光が幻想的なバーで飲み物を買って、クラゲのコーナーに足を進める。
筒状の水槽がいくつも林立しており、様々な色と光で彩られたクラゲは神秘的で。
ふよふよ漂うクラゲと楓くんが似ている気がして思わず笑ってしまう。
「…三井さん?」
「ああごめん、ちょっと思い出し笑いを…ね」
不審そうな顔の彼を宥めて次のコーナーへ。
「ナンヨウマンタ…すごい…」
「東日本での展示は唯一みたい」
説明書きに目を落とす俺の横で、頭上を仰ぐ楓くん。口が開いているのを指摘しようとして、やめた。響くカメラ音に、はっとこちらを向いても遅い。
「ん?魚を撮ってただけだよ」
しれっと答えながら待ち受け画面に設定。
「そうですか…?」
疑いの目を向けてくる彼に画面を見せて。一拍置いた後、予想通り憤慨する姿に笑いを噛み殺した。
「…あっほら、あの魚は世界でここだけに展示されてるって」
気を逸らすために鋭利な形のドワーフソーフィッシュを指さしてやれば、すっかり機嫌を直してくれたようだ。
楓くんが心待ちにしていたらしいイルカショーは、かなりの圧巻で。360度の円形プールで所せましと演技するイルカ達に指示を出すスタッフが和装だったのも印象的だった。
「夜の部はまた違った雰囲気らしいね」
「早く観たいなぁ…」
パンフレットに釘付けの視線を少し寂しく思いながらも、ここまで楽しんでくれるなら来た甲斐があったというものだ。
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