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125.
泡を食った様子のハルから連絡を受けて、家を飛び出したのが数分前。
悪戯でこんなことを言うような奴じゃない。ましてや楓くんに関してはなおさら。
聞かされた住所は、同じ新宿でもあまり立ち入らない場所。そこは暴力団関係者やヤクザの多い土地として有名で。
楓くんがそんな所に関わる理由は1つしかない。
(俺の、せいだ…)
ハンドルに拳を打ち付けて歯噛みした。
予想通りシャッターは締め切られていて。合流したハルと建物の周りを捜索する。はるか頭上に、一つだけカーテンのされていない窓を見つけた。散らばるコンテナを積み重ね、2人で覗くと。
「っ…やっぱり……!」
ハルが唸る。床に横たわる楓くんへと容赦なく暴力を浴びせる男達。少し離れた所には見覚えのある姿が。
「…あれ、ミカだよな」
少し雰囲気が変わったものの、間違いない。呟くハルに同意し、そのまま窓ガラスを割って入ろうとしたが慌てて止められる。
「待てって!無闇に突入してもしらばっくれそうだし…写メ撮らせろ」
ごそごそと取り出したスマホで何枚か撮影し、コンテナの下へ飛び降りた。
「石、投げるから。ぶつかったら許せ」
言われて横にずれる。運動神経の良いハルのことだ、そんな事態にはならないだろう。弧を描いた石は見事に窓ガラスの真ん中を打ち抜いて。
開いた隙間から中へ飛び込んだ。全員の視線が一瞬にして集まるが、俺は楓くんしか目に入らなかった。
駆け寄って体を抱き起こす。服の上からだと計り知れないが、滲んだ血の量からしてきっと体中に怪我を負っていることだろう。幸いにも顔には赤い筋が1本刻まれているだけで、震える息を吐き出した。
意識がないのか呼んでも目は固く閉じられたまま。呼吸をしていると確認して、ようやくあたりを見回す余裕ができた。
「よっ、と…大丈夫か!?」
遅れて中に入ってきたハルが走ってくるのを見て、楓くんを預ける。
3人の男達はただ呆然と突っ立っているだけ。元凶の彼女へ近づけば、そろりと後ずさりして。
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