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127.
緊張の糸が切れたのか、再び昏睡状態に陥った楓くんを車に乗せて。
リンさんへと連絡を入れ終わったハルがため息をつく。
「俺がたまたま見かけたから良かったものの…。まーお前も変な客に付かれて…これでもう平気だと思いてぇな」
「…最後に気になること言ってたけど」
自分だけではない、と。
それはまるで黒幕は別に存在するかのような言い回しで。ちらりと後ろの様子を窺ったハルが剣呑な表情で目を細める。
「…目星はついてんの?」
低く呟かれたそれに、黙って頷く。確証はないけれど―――…
何も言わずに出迎えてくれたリンさんに感謝して、奥の仮眠室に向かった。
救急箱と湯、それにたくさんの布が用意されていて思わずリンさんの顔を見る。
「ん?このくらいは常備してあるわよ」
緩く微笑んだ彼の指示で腕や足の傷を手当していく。服の上からだったのが幸いして、青痣や打撲痕は多いものの出血は少なかった。
「意識がなくて良かったわ、痛みもあまり感じないだろうし。飲み物と薬持ってくるから、様子見ててちょうだい」
そう言い置いて給湯室へと消えたリンさん。
「…こりゃまた飲みに付き合わされるかな」
ひと段落ついてほっとした様子のハルが悪戯っぽく笑う。肩を竦めて受け流し、楓くんの手を握った。
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