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温かな温度と鼻腔をくすぐる甘い匂いに、意識が浮上する。焦点の合わない目でぼんやり虚空を見つめて数秒。 「……え、っ…!」 今までのことが急に押し寄せて、思わず体を起こそうとするが、あちこちに走る激痛。 「あーダメだよ、まだ寝てなきゃ」 やんわり肩を押されてそちらを見ると、優しく目を細めたハルさん。 「おはよ、具合はどう?」 事態が飲み込めなくて目を瞬かせる。そろりと周囲を見回して、また彼に視線を戻す。 「…ああ、ここはリンさんのお店。今はルイが事情説明してるから、もう少しで戻ってくるんじゃないかな」 「そう、なんですか…」 頷くと足元のドアが開いた。揃って顔を覗かせる馴染みの2人に頬を緩めて、今度はゆっくりと体を起こした。 「楓くん!気が付いた?」 ぱたぱたと駆け寄ってくるリンさんに笑いかけると、明らかにほっとした様子で後ろを振り返った。 「……ルイ、さん」 口を開いた彼は、しかし首を振って傍らの椅子に腰掛ける。 「楓くん、良く頑張ったわね…」 噛みしめるように呟いたリンさんに、頭を撫でられて。不意にじわりと涙が滲んだ。手の甲で擦って俯く。 「…よし、じゃあ夜食を作りましょうか!手伝ってちょうだい、ハル」 「へいへーい」 立ち上がった彼は最後にぽん、と手を置いて。 「横にある鎮痛剤、飲んでね。あとココアも」 連れ立って出て行く2人を見送り、ココアに手を伸ばす。

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