128 / 330
128.
温かな温度と鼻腔をくすぐる甘い匂いに、意識が浮上する。焦点の合わない目でぼんやり虚空を見つめて数秒。
「……え、っ…!」
今までのことが急に押し寄せて、思わず体を起こそうとするが、あちこちに走る激痛。
「あーダメだよ、まだ寝てなきゃ」
やんわり肩を押されてそちらを見ると、優しく目を細めたハルさん。
「おはよ、具合はどう?」
事態が飲み込めなくて目を瞬かせる。そろりと周囲を見回して、また彼に視線を戻す。
「…ああ、ここはリンさんのお店。今はルイが事情説明してるから、もう少しで戻ってくるんじゃないかな」
「そう、なんですか…」
頷くと足元のドアが開いた。揃って顔を覗かせる馴染みの2人に頬を緩めて、今度はゆっくりと体を起こした。
「楓くん!気が付いた?」
ぱたぱたと駆け寄ってくるリンさんに笑いかけると、明らかにほっとした様子で後ろを振り返った。
「……ルイ、さん」
口を開いた彼は、しかし首を振って傍らの椅子に腰掛ける。
「楓くん、良く頑張ったわね…」
噛みしめるように呟いたリンさんに、頭を撫でられて。不意にじわりと涙が滲んだ。手の甲で擦って俯く。
「…よし、じゃあ夜食を作りましょうか!手伝ってちょうだい、ハル」
「へいへーい」
立ち上がった彼は最後にぽん、と手を置いて。
「横にある鎮痛剤、飲んでね。あとココアも」
連れ立って出て行く2人を見送り、ココアに手を伸ばす。
ともだちにシェアしよう!