129 / 330
129.
薬を飲んでひと息ついた彼に近寄る。何から言えば良いのか、ぐるぐると頭の中で回る言葉たち。
「……本当に、ごめん」
結局それしか出てこなくて、深々と頭を下げた。恐る恐る視線を戻すと、苦笑しながら目を伏せる楓くん。
「起きてしまったことは、仕方ないですから」
そう言われてしまうと、ただ謝ることしかできない。軽く嘆息した彼が口を開く気配がして、押し黙った。
「…助けに来てくれて、ありがとうございました」
お礼を言われたはずなのに、何故か素直に喜べなくて。普段よりも幾分か平坦な声音。あんなことがあった後だから、もちろんショックを受けているのは分かっている。
それでも、この奇妙な違和感は何だろう。
さっきよりも赤みが戻ってきた頬、僅かに上がった口角。
けれど、その双眸は不自然なほどに凪いでいた。
「…楓、くん―――」
「はーいお待たせしましたー!」
陽気な声を纏いながら再び部屋に戻ってきた2人を見て、瞬きしたその後。
もう、あの静けさを湛えた瞳が現れることはなかった。
ともだちにシェアしよう!