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132.
固く引き結んだ唇。熱の籠った瞳。組み合わせた手は僅かに震えていて。快活そうな外見の彼女が醸し出す空気は、紛れもなく恋をしているそれだった。
(………やっぱり)
雰囲気からしてそうだとは思っていたけれど。
こちらに背を向ける楓くんの表情は分からない。しばらく経ってから、がばりと頭を下げた彼に驚く。
「…告白してくれたのは嬉しい。ありがとう。ただ、俺…今ちょっと気になる人が居るんだ」
その様子を見た彼女は、ふっと眉を下げて笑った。緩く首を振って続ける。
「何となく、そうかなーとは思ってた。近くで見てたら分かるよ。…上手く行くといいね」
「……ごめん」
「ううん、謝らないで。その代わり、これからも友達として仲良くしてください」
去っていく彼女を見送って、人知れずため息をついた。少しの時間だったけれど、共感できる部分が多くて。
(まあ、普通に考えたら…俺のことは嫌になるよな)
俺のせいで心も体も傷つけてしまった。直接手を下したのはミカだとしても、原因となった俺を恨んでいると考えるのは普通だろう。憎まれて当然だ。
だから、俺が彼の"気になる人"だという望みなんて持たなかった。可能性は万に一つもない。
(……俺が居なければ)
と、考えたところでこの世界から消えられるわけもなく。
だったらせめて彼の目に入らないところで生きよう。声も視線も届かない離れた場所からでも、彼を護ることが出来たら。
充分な償いかは分からないが、それでも少し楽になれる気がして。
「もしもし、ハル?この前の話だけど――…」
遠くなる背中を目に焼きつけてから、踵を返した。
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