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133.
急ぎで話したいことがある、とハルさんに言われ。学校から近いカフェに足を運んだ。
「悪い、遅くなった!」
メニューを眺めだしてすぐ。息を切らしながら近寄って来た彼に首を振って、目の前の席を勧める。
「大丈夫ですよ、俺も今来たところなので」
「良かったー、サンキュ」
ほどなくして運ばれてきた飲み物を眺めつつ、先に口を開いたのは彼の方だった。
「…体は、もう平気か?」
「はい。お陰さまで…もう痕もほとんどありません」
一番酷かった腹部の痣も薄くなり、鏡を見てほっとする日々。そうかと微笑んで再び紡ぐ言葉は。
「翔、って…聞き覚えあるだろ?」
久しく耳にしていなかった名前。屈託無く笑う姿を思い出して懐かしむ。
「…落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
泳ぐ瞳。握り締められた拳。しばらくして上げられた相貌は、緊張を孕んだもので。
「この前の一件…黒幕は、多分そいつだ」
言われたことを理解するまでに、かなりの時間を要した。
黒幕?翔さんが…?
「え…なん、…それって…」
「…俺らもまだ確信があるわけじゃない。ただ、一番怪しいと思ってる」
あんなに優しい彼が何かを企んでいるなんて、考えられない。緩く首を振って手元に視線を落とす。
「また狙われる可能性が高いんだ。だから、もし翔と会う約束をしたら知らせてほしい。ルイに言いづらければ俺でも良いし」
切実な響きにそろりと顔を上げれば優しく目を細めるハルさん。
「用心に越したことはないから…な?」
動揺の波が引かない中で、茫然と頷くより他なかった。
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