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頬に鋭い衝撃を感じて、急速に意識が浮上する。 痛む箇所を触ろうと手を動かすも頭上で何かに拘束されていて。それどころか視界も真っ暗。 半ばパニックになりながら、必死で身を捩る。口に詰められた布のせいですぐに息が上がって、涙が滲んできた。 「おはよー芹生くん」 敏感になった聴覚は、(たが)うことなくその声を捉えて。まさか―――と愕然。 「…流石に目隠しだけは取るか」 目元に触れる指先の感覚に思わず身を震わせる。ぼやけた視界が明瞭になって、戻ってくる光。 「うん、やっぱり綺麗な顔してる」 満足そうに目を細めながら、頬を撫でたこの人は。 (………しょう、さん…) 頭の中を一瞬で駆け抜けた、ハルさんの忠告。 そんなの嘘だ、と。信じたいと思っていた。 情けないことに、ぶわりと涙が溢れてくる。こんなことをしている張本人に見られたくなくて、固く目を瞑った。 「あー泣くなって…。芹生くんの顔、好みだからさ。困るんだわ」 苦笑する彼は取ったばかりの目隠しをまた付けて。再び闇の中に放り込まれる。 「…昔から、好みのタイプは一緒だった。芹生くん見てすぐ分かったよ」 ギシリと鳴った音で初めて、自分が簡素なベッドに寝かされていると悟った。この扱いも相まって、少なからず身の危険を感じる。 「どうせ助けに来れないだろうし、お前ら好きにしていいよ」 離れた場所から聞こえるその声音は、不自然なほど感情が削ぎ落とされたもので。

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