142 / 330
142.
あれは高校3年生の春。
夏の大会に向けて、バスケ部員として汗を流していた俺と、1人の女子―――樋口咲との出会い。
彼氏を応援しに来た友達の付き添いだ、と言って体育館に現れる彼女は、そう。ちょうど芹生くんを女の子にしたような雰囲気。
控えめな笑顔に、惹かれた。向こうも少なからず好意を抱いてくれているようで。
仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。
ある日のこと。
部活が終わるのを待っていてくれた咲と並んで校門を出る。しばらく歩いた曲がり角で、1人の男子と出くわした。
同じ制服……校章の色からして1年生だろうか。
そのまま通り過ぎようとして、隣を歩く彼女の異変に気付く。
「……さ、き…?」
「えっと…これは、その…」
目を見開く男子生徒と、明らかに狼狽える咲。一瞬にして凍りついた空気。
「お前、今日…女子と帰るって」
ちらりと投げられた視線は不審そうなもの。答えることもできず、黙って彼女を見つめるしかなかった。
「ち、違うの、たまたま…!」
「…良いから来い」
咲の腕を掴んで立ち去る彼の、真一文字に結ばれた口元。もしかしなくても2人はそういう仲なのだろうか。
(……悪いこと、したなぁ)
それなら身を引くまでだ。気になってはいたけれど、人の彼女に手を出す趣味はない。
友達として接するのも控えようか、と。
呑気に考えながら家路についた。
ところが、そう簡単に終わる問題でもなく。
ともだちにシェアしよう!