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146.
「あれから………どうなった?」
過去を思い出して、拘束を緩める俺を一瞥した翔は。再び椅子に座ると口元を歪めた。
「あんたがそれを聞きます?まあ…気になるなら教えても良いですけど」
タバコを取り出す彼を横目に、奥の楓くんを見やる。それに気づいた脇のハルが、緩く首を振った。
「…あの後。樋口財閥との合併話がなくなって、ウチは揃って路頭に迷いました。そもそも俺らみたいな中小企業の技術に目を付けてくれたのが奇跡みたいなもんでしたから。……会社は倒産して、親父は蒸発。心労が祟ったのか、母親もすぐ死にました」
紫煙をくゆらせてどこか遠い目をする翔。壮絶な体験を聞かされて―――でも、頭を下げるのは違う気がした。
「別に今更謝れとは言いません。ただ…あんたが大事にしてる物を、一度でいいから壊したくて。悔しそうな顔も見られたし、これで満足ですよ」
短くなったタバコを床に落とし、靴底で踏みつける。
俺に復讐するためにわざわざ上京して、ホストになって…そこまで恨まれていたと思うと薄ら寒い気さえした。
「ミカの親父…っつーか、後ろに付いてるヤクザ目当てで近づいたんですけどね。これがまあ使えなかった。そこに伸びてる奴ら、回収するように連絡しときますから。…鍵、あいつに貰ったんでしょ?」
立ち上がり、伸びをする姿を眺めて頷く。
「…じゃ、色々お世話になりました。三井先輩」
どこか懐かしそうに目を細めながら呟いた翔の、小さくなる背中を黙って見送った。
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