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緩やかに上昇する意識を感じて、嫌だと首を振る。 あんな地獄の続きを思うだけで身体の痛みが増す気がした。 相変わらずの暗闇。あらん限りの力で抵抗しているのに、いともたやすく押さえ付けられて。 すると一瞬、ふわりと鼻腔をくすぐる甘い香り。ここにはいないはずの人が浮かんできて、思わず動きを止めた。 「…俺のこと、見える?」 そんな、まさか―――… もう目隠しは付けられていない。 そこで初めて気付いて、恐る恐る目を開けると。 「みつ、い……さん…」 くしゃりと顔を歪めた彼は、俺の肩に額を押し付ける。 か細く謝り続ける姿が何だか頼りない子供のように感じて、まだ痛む腕で頭を撫でた。 深呼吸して周りを見渡すと、すぐ後ろにハルさん。眉を下げながら苦笑している。 「どうして、ここに…?」 顔を上げた後もしばらく言葉を探しあぐねている様子の彼。 そっと俺の両手を包んで、ようやく口を開いた先は。 「…助けに、来たんだ。君を……ずっと、護るために」 どくん、と。心臓の跳ねる音を聞いた。 形の良い唇から紡がれる愛を理解した瞬間、訳が分からないほどの歓喜に襲われて――赤くなった顔と熱くなる目頭を自覚しながら、今度は俺が額を押し付ける番だった。 (な、んだ、これ…っ) 自分の顔と対照的に温度が下がった手のひら。よく目を凝らせば、彼のそれは僅かに震えている。 心配、緊張、羞恥。 この中のどれが原因だとしても、見てしまえばもう誤魔化すことは出来ない。 自分の気持ちは一番良く分かっているから。 俯いたまま、瞼を閉じた。 「…ありがとう、ございます……」 落とした字面(じづら)以上の意味を、彼は果たして汲み取ってくれるだろうか。

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