149 / 330
149.
10月に入って数日。
この前のお礼がしたい、と楓くんからの誘いを受けて出掛けることになった。
お礼どころかお詫びをしなければいけない立場にあるのだけれど、それはそれとして楽しみだ。
「すみません、お待たせしました!」
走り寄ってきた彼に手を挙げて応える。出会った頃より髪が伸びたと目を細めつつ、言葉に耳を傾けた。
「でも本当に良いんですか?俺の行きたい所ばっかりで…」
「うん、大丈夫。気にせず楽しんで」
頭を撫でるのも久しぶりだと穏やかに考える。
あの一件があって、俺は彼への見方を変えることにした。
俺が楓くんを好きになってしまったから。
恋愛感情を抱いたせいで、あんな目に遭ったのだから。
護る、と決めた。もう誰にも傷付けさせない。
そのためには"友達"で居るべきだ。
一番近くで見守るのが細田くんだとしたら、二番目でも。
ただ良き理解者でいることに努めよう。
そうすればきっと……平穏な日々が訪れる。
「映画、すごかったですね…!」
「前評判よりも面白かった気がするよ」
興奮気味に感想を語る彼を横目で見ながら、改めて決意した。
ともだちにシェアしよう!