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151.
あの日を境に"気になる人"から"好きな人"へと変化して。
レベルが違う相手に恋をするということは、こんなにも大変なんだと。今更気付かされた。
俺の頬に触れた長い指が、そのまま自らの口に運ばれるのをぼんやり眺める。
あまりに自然な仕草。謝る彼は今まで幾多の経験をしてきたんだろう。
「…どうかした?」
思わずきょろきょろと辺りを確認してしまって、掛けられた言葉に苦笑する。
「こんな所……ルイさん、のお客さんに見られたら大変だと思って」
護る、と言ってくれたことを信じていないわけじゃない。ただ、あの廃ビルでの体験は今でも大きな傷になっているのは事実で。
「……じゃあ、2人になれる場所に行こうか」
何か言いたそうにしたものの、結局は飲み込んだ様子の三井さん。
紡がれた言葉に、また違和感を覚える。
以前だったらもっと違う風に聞こえたであろうその文章も、今は心を動かされない。
なにより、熱を帯びた視線を向けられることがなくなって。
例えるならそう、保護者のような―――。
そこまで考えたところで、背筋がスッと冷えるのを感じた。
「なんてね、冗談―――…」
「…三井さんの、家。行きたいです」
好きだと伝えてくれたあの言葉は、もしかしたらもう無効なのかもしれない。人の気持ちは移ろいやすいものだけれど、目の前の彼は違うと思っていたから。
「ダメ、ですか…?」
そんなことはないと確認したくて、賭けに出た。俯きたくなるのをなんとか堪えながら唇を噛む。
一瞬驚いたように目を見開いた後、少し強めに頭を撫でられて。
「…良いよ、きっとミウも会いたがってる」
静かに落とされた呟きに、やっぱり愛情はなかった。
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