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154.
玄関を覗いて、気配を確認する。袋の中にそろりと手を伸ばした。
本の背表紙を床に付けて、手を離す。自然に開かれたページを見た瞬間、思わず目を疑った。
(え、…これ…)
白く滑らかな背中を惜しげもなく晒して、こちらを仰ぎ見る人物。
女性にしては短い髪と、何より振り向くその表情はひどく中性的で。一見すると少年にも間違えられそうだ。
その、面差しが。知っているものと良く似ている。
生まれてからずっと二十年間、鏡で見続けてきた―――俺の、顔。
瓜二つのそれを指でなぞって、目元の泣きぼくろに気付いた。違う特徴にほっとしている自分に苦笑しつつ、本を戻す。
(別人だって分かってても、なぁ……)
ため息をつく俺をじっと眺めていたミウちゃんが一声。
ケーブルを回収して、そっと抱き上げる。
リビングに帰る足取りが重くなったのを自覚しながら、ふわふわした毛に顔をうずめた。
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