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155.
借りていた服を友達に返して、家へと急ぐ。
「ただいまー…」
いつもの癖で声をかけながらリビングの扉を開きかけて、立ち止まった。
「…あ、お帰りなさい」
柔らかい声に出迎えられて、一瞬戸惑う。
一人暮らしを始めてから『お帰り』と言われたのは初めてかもしれない。
「三井さん…?」
「ええと…普段はミウだけだから、ちょっとびっくりして」
少し、いや…かなり嬉しかった。しかもそれが自分の好いている相手ならなおのこと。
「…今何か煎れるよ。ココアで良い?」
じわじわと心が浸る幸せを悟られないように、キッチンで背を向ける。
(……友達、って。中々難しい…)
ため息を飲み込むと、彼の声が。
「この前…話してくれましたよね、翔さんのこと。俺と似た女の子が好きだったって」
「……うん」
「俺が拘束されてた時…彼、こうも言ってたんです」
出来上がったココアを目の前に置いても、俯いたまま微動だにしない楓くん。
明らかに様子がおかしいと分かっていながら、その先は読めない。
続きを聞くのが怖い、と。
逃げ出したくなる俺の気持ちと裏腹に、上がった視線に捉えられる。
「…三井さんと、好みのタイプが同じで。俺の…顔、が……好き、とか」
一拍置いて、全てを理解した。見つめる先の瞳が揺らぐ。
「…やっぱり、翔さんと一緒なんですね」
「そ、れは…」
誤解だと。どうしても言えなかった。
翔と何処が違うのか聞かれても、きっと俺は答えられない。
「……お邪魔しました」
扉の閉まる音と、ミウの鳴き声が重なる。
たとえ友達であったとしても。
傍に居れば結局、彼を傷付けることしかできないのか。
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