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156.

11月に変わり、そろそろ肌寒さを感じる時期になってきた。 あの日、彼の家を出てから。 何となく連絡しづらいまま時間が過ぎてしまって。 (…いっそ嫌いになれたら、良いのになぁ) 寝返りをうって、眠ろうと努める。 気付くとそこは見慣れた廊下。数回訪れただけなのに、やたらと鮮明に思い出せる自分に笑ってしまった。ああ、夢か…なんてぼんやり考えながら扉を開ける。 (え……!?) 本来ならそこはリビングのはず。それが何故か寝室にすり変わっていて。 夢だからそんなこともある、と。冷静に考えられないほどの光景が飛び込んできた。 目の前のベッドに誰かを組み敷いている様子の―――三井、さん。 彼の上半身は惜しげもなく晒されて、浮き出た肩甲骨が艶めかしい。 横たわる人物は誰なのか見えないけれど、彼が大事に思っている相手だということは背中からでも伝わってくる。 「恥ずかしい…?」 「…あ、当たり前です…!」 ぼそぼそと交わされる会話も、ひどく甘ったるい空気を纏っていて。 今すぐ部屋を出たいと願うのに、足は地に縫い止められたまま。 否が応でもその様子を見せつけられる内に、あることに気が付いた。 どこかで耳にした、声。 思い出そうとする俺を邪魔するかのように脳裏が霞掛かる。 「――だって…三井さん、全然―――…」 少し拗ねたようなこの口調。ふと浮かんだ人物に絶望するしかなかった。 段々と途切れがちになっていく声。 「…それ…、君を―――…と思ったから」 (ああ、俺は………本当に) 「ちゃんと、――…です」 これ以上何も見たくない。聞きたくもない。 思わず両手で耳を塞いでうずくまる。 ――…俺も好きだよ、楓くん 一瞬ノイズの晴れたその言葉は、どんな凶器よりも心を抉った。

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