157 / 330

157.

はっと目を開けると、まだ暗闇の中。 やけに生々しい夢だったせいか、ふわふわした感覚のまま。ため息をつきながら寝返りを打とうとして、ふと違和感に気付く。 (……嘘だろ…) 下腹部の熱。自覚した途端、じわじわと温度を上げていくそれに唇を噛んだ。 あんな夢を見てしまったせいだから仕方ないと言い聞かせ、そろりと手を伸ばす。 「…っ…ふ、」 ここのところ忙しく、慰める暇もなかったと考えながら、自然と浮かぶのは先ほどの情景。 目にした雑誌と彼を結びつけてしまったら最後、どうしても頭から離れない。 (…どんな、風に) 抱いている時の表情を。見てみたい、と思った。 瞳を閉じれば蘇る声音。 『……楓くん』 あの美しい声で穏やかに呼ばれると、何だか自分の名前が全くの別物に聞こえて。 次いで降ってくる優しい視線と、大きな手のひらが好きだった。 ああ、なのに――― (ごめ……なさ、い…っ) きっと、彼は。俺の顔が一番大事で。 問うた時の反応が忘れられない。否定して欲しいと願った口からは、何も紡がれなかった。 そんな人に欲情してしまったことも、嫌いになれないことも。 悔しくて、情けなくて。 『――…好きだよ』 記憶よりも少し低い、掠れた響きを作り上げてしまったら、もう駄目だった。 「ん、……っ、」 押し殺した声と涙の代わりに、精を放つ。 悔しくて、情けなくて。 そして何より、ひどく悲しかった。

ともだちにシェアしよう!