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157.
はっと目を開けると、まだ暗闇の中。
やけに生々しい夢だったせいか、ふわふわした感覚のまま。ため息をつきながら寝返りを打とうとして、ふと違和感に気付く。
(……嘘だろ…)
下腹部の熱。自覚した途端、じわじわと温度を上げていくそれに唇を噛んだ。
あんな夢を見てしまったせいだから仕方ないと言い聞かせ、そろりと手を伸ばす。
「…っ…ふ、」
ここのところ忙しく、慰める暇もなかったと考えながら、自然と浮かぶのは先ほどの情景。
目にした雑誌と彼を結びつけてしまったら最後、どうしても頭から離れない。
(…どんな、風に)
抱いている時の表情を。見てみたい、と思った。
瞳を閉じれば蘇る声音。
『……楓くん』
あの美しい声で穏やかに呼ばれると、何だか自分の名前が全くの別物に聞こえて。
次いで降ってくる優しい視線と、大きな手のひらが好きだった。
ああ、なのに―――
(ごめ……なさ、い…っ)
きっと、彼は。俺の顔が一番大事で。
問うた時の反応が忘れられない。否定して欲しいと願った口からは、何も紡がれなかった。
そんな人に欲情してしまったことも、嫌いになれないことも。
悔しくて、情けなくて。
『――…好きだよ』
記憶よりも少し低い、掠れた響きを作り上げてしまったら、もう駄目だった。
「ん、……っ、」
押し殺した声と涙の代わりに、精を放つ。
悔しくて、情けなくて。
そして何より、ひどく悲しかった。
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