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時計の針が10時を回ったところ。 お祭り騒ぎの店内を後にして、裏口から外に出る。 ひんやりした空気が心地良い。白く煙る息を眺めながら、スマホを取り出した。 途切れることのないコール音に、半ば諦めかけたその時。 『……はい』 相変わらず心地の良い控えめな音が耳に届く。随分と懐かしく感じるそれに、喉の奥が狭くなるような感覚を覚えた。 一度強く目をつぶって、深呼吸する。 「…久しぶり。今、大丈夫?」 声は、どう聞こえただろうか。息を潜めて返答を待った。 『ええと…少しなら』 微かに笑う気配がして、肩の力を抜く。言いたいことが上手く伝わる自信はない。 それでも、 「…この間は、ごめん」 謝っておきたかった。誤解は解けなくても―――いや、むしろ誤解されたままの方がお互いにとって良いかもしれない。 随分と前に決めたことを思い出して、拳を握った。 『…また、』 「うん…?」 ややあってぽつりと漏らされた言葉は途切れて。思わず首を傾げる。 『ミウちゃんを、触らせてくれたら。…それで良いです』 暖かさを含んだ声音。 きっと傷ついてしまっただろう。にも関わらず。 (…本当に、この子は) 気を許せば、簡単に想いが溢れてしまいそうで。 (見守るって、決めたのになぁ…) 諦めるにはまだ時間がかかりそうだと苦笑した。

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