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160.
時計の針が10時を回ったところ。
お祭り騒ぎの店内を後にして、裏口から外に出る。
ひんやりした空気が心地良い。白く煙る息を眺めながら、スマホを取り出した。
途切れることのないコール音に、半ば諦めかけたその時。
『……はい』
相変わらず心地の良い控えめな音が耳に届く。随分と懐かしく感じるそれに、喉の奥が狭くなるような感覚を覚えた。
一度強く目をつぶって、深呼吸する。
「…久しぶり。今、大丈夫?」
声は、どう聞こえただろうか。息を潜めて返答を待った。
『ええと…少しなら』
微かに笑う気配がして、肩の力を抜く。言いたいことが上手く伝わる自信はない。
それでも、
「…この間は、ごめん」
謝っておきたかった。誤解は解けなくても―――いや、むしろ誤解されたままの方がお互いにとって良いかもしれない。
随分と前に決めたことを思い出して、拳を握った。
『…また、』
「うん…?」
ややあってぽつりと漏らされた言葉は途切れて。思わず首を傾げる。
『ミウちゃんを、触らせてくれたら。…それで良いです』
暖かさを含んだ声音。
きっと傷ついてしまっただろう。にも関わらず。
(…本当に、この子は)
気を許せば、簡単に想いが溢れてしまいそうで。
(見守るって、決めたのになぁ…)
諦めるにはまだ時間がかかりそうだと苦笑した。
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