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もうすぐ細田との待ち合わせだと時計を気にしていた、クリスマスイブ。 「…え、」 震えるスマホを取り出せば、予想もしていなかった名前が。 「……はい」 しばらく経っても振動を続ける様子を見て、迷った末に通話ボタンを押した。 遠く聞こえる喧騒。 (こんな日でも仕事か…大変そうだな) いや、こんな日だからこそ稼ぎ時なのかもしれない。 ぼんやり考えながら耳を傾けて。 謝罪に含まれる僅かな震えを聞き取ってしまったら、もう駄目だった。 本当は色々言いたいこともあったのに。 「ミウちゃんを、触らせてくれたら。…それで良いです」 俺の返答を聞いた三井さん。 耐えられないといった風に吹き出す笑い声を懐かしく感じた。 自分から逃げ出したくせに、会いたい――と。 一瞬でも思ってしまう俺は身勝手だろうか。 「…あ、の……っ」 三井さんが好きなのは、きっと俺の顔だけ。 今までの経験上、幸せになれないことは分かり切っているのに。 顔だけでも良いから好きでいてほしい、なんて。こんな風に願うのは初めてかもしれない。 あれだけ恨んだ容姿。 それを一瞬にしてありがたく思う、現金な自分が嫌で。 ちらりと再び時計に目をやった。

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