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『…あ、の…っ』 「――ねえ、」 静寂の後、投げかけた声が同じタイミングなことにも笑ってしまいそうになったけれど。 『あー…先に、どうぞ』 改めて譲られると気恥ずかしいような。そんなに大したことじゃない、と前置きして。 「…楓くんはさ、このあと…何か予定、あるの?」 無意識に詰めていた息を吐く。 今が仕事中だとか、クリスマスイブの稼ぎ時だとか。 会いたいと思ってしまったら、もう関係なかった。 『このあと、ですか?待ち合わせがありますけど…』 不思議そうに消えた語尾の先を汲み取って、すぐにでも電話を切ってしまいたい衝動に駆られる。 「…そっか。上手く行くと良いね」 クリスマスイブのこんな時間に会うような相手。ふと浮かんだのは、いつかの言葉。 [俺…今ちょっと気になる人が居るんだ] 電話越しで良かったと、心から思う。こんな情けない姿を見られなくて。 『え?あの、三井さ――…』 「…そろそろ仕事、戻ろうかな」 これ以上引き止めても、きっと負担をかけるだけ。邪魔者は真面目に働くとしよう。 「――…メリークリスマス」 心に積もる全てを乗せた言葉が、降り始めた白銀に溶け切っても。 まだ、しばらくはここから動けそうになかった。

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