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163.
年末年始。グランジュエルはきっとカウントダウンイベントで盛り上がるだろうけれど、俺はどうしても出勤する気分にはなれなかった。
一度、ここから離れて。彼への気持ちを切り替えようと、久しぶりに故郷の土を踏んだ。
(…もし、次に会うことがあるとすれば)
その時は、本当に良い友人であれるように。
「よう、久しぶりだな!元気にしてたか?」
大丈夫だと遠慮したのに、わざわざ空港まで迎えに来てくれた…兄。屈託無く笑う姿を見ると、帰ってきた気がする。
「ただいま。…兄さん、老けた?」
そのままの表情で頭を鷲掴まれて、勘弁してほしいと苦笑をひとつ。促されるまま車に乗り込んだ。
「あら、晄くん!長旅で疲れたでしょう?荷物はこっちでやっとくから、先にご挨拶して来ちゃいなさい」
柔らかく微笑むこの人は、兄貴の奥さん。数年前に嫁いできてからは2人で旅館を切り盛りしている。
頭を下げて、奥へと進んだ。
渡り廊下を抜けて、普段はあまり使われない居住スペースへ。ありがたいことにいつも賑わう旅館だから、出番が来るのは年末年始のこの時期くらいか。
「…戻りました」
深呼吸をして扉を開ける。
――と、腹のあたりに感じた衝撃。
「お帰りー!もう全然連絡してくれないから寂しかったのよー!」
「ごめんって…ただいま、母さん」
頭を撫でてやれば、いそいそとソファーに戻って行く。その先には変わらず笑う父さん。
「お帰り、晄。母さんは見ての通りだから、こっちにいる間は構ってやりなさい」
少し懐かしく感じる2人を見比べて、頷いた。
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