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164.
除夜の鐘を聞きながらカウントダウンのテレビ番組を見て。久しぶりに家族で過ごす年越しは楽しかった。
初日の出に目を細めながら、紫煙を吐く。
天気とは裏腹にどこか晴れない気持ちを抱えたまま。原因は分かっているけれど。
(……離れてみれば、と思ったのにな)
短くなったタバコを灰皿に押しつけて、寒さに肩を竦めた。スマホを取り出せば数件のメッセージ。
何気なしにスクロールする指が、止まる。
『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』
彼にしてはめずらしく、可愛らしい干支の絵文字が付いたそのメール。なんてことはない挨拶なのに、温りの宿った指先を自覚して。
(…やっぱり、ダメだ)
俺の心を動かすのは、楓くんだけなんだと。
スマホを見つめること数秒。意を決して、画面に指を走らせた。
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