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168.
オープンキッチンに入って、思わずため息をついた。
(これは…ハル呼んどいて正解…)
出前のメニューを探す手が止まる。
少しやつれたように思う。気づけばつい触れていた、滑 らかな頬。僅かな震えに気付かないはずもなく。
(…好きな人と上手く行ってるから、嫌だったのかも)
可愛らしい女の子と並ぶ彼を想像して、浮かべた笑みは酷く自虐的だ。
あのこそばゆい空間に戻るのを躊躇いながら、敢えてゆっくりと歩みを進めた。
「――すき…、だなぁ……」
背中で呟きを受けたミウが、こちらを見やる。
(分かってるよ、だからそんな顔しないで)
思わずメニューを握る手に力が入りそうになった、瞬間。
「……にゃおん」
一声あげて拘束を解くとこちらに向かってくるミウ。屈んで抱きかかえれば、動きを追った彼の視線が絡む。
「…お待たせ」
何事も無かったかのように近寄り、メニューを渡す。上手く表情を作れているように願って。
(もしかしたら…)
呼ばれて、迷惑だっただろうか。
口を開きかけたものの、問うにはあまりにも女々しいと思い直した。
ちょうどその時、鳴り響いたチャイム。
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