172 / 330

172.

「…どんな人?」 数十分ぶりに出した声は、驚くほどに凪いだものだった。舌打ちを抑え込んで彼を眺める。 「ええ、と……すごく、綺麗で…」 「ふーん?」 相槌を打つハルをちらりと見やって、更に紡がれる言葉。少しずつ抉られるような感覚に、そっと目を閉じた。 「…俺より年上なのに、たまに子供っぽくなって。それでいて芯のある――…強くて、優しい人です」 語る彼は、どんな表情をしているのだろうか。 行き場のない感情と一緒に、握り潰した空き缶を袋に落とす。リビングからは見えないようにしてキッチンでしゃがみ込んだ。 (……応援するって、決めただろ) 耳をすり抜ける2人の話し声。深呼吸して、立ち上がった。 彼は―――楓くん、は。 俺なんかが縛り付けて良いような人じゃない。 吹っ切れてしまえば笑顔を作るのも簡単で。 歪んだそれを悟られないように願いながら、元の場所へと歩き出した。

ともだちにシェアしよう!