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173.
そろそろ帰るというハルを連れて、マンションのエントランスまでやって来た。
「…で?」
タクシーを待つ間、見慣れた横顔に話しかける。
「1ミリも酔ってないくせに…何か狙いがあったんだろ」
「……ありゃ、バレてた?」
ホストがあのぐらいの酒量で酔ってたまるか、と非難の視線を向けるも。悪びれず頭を掻く姿に嘆息して、俯いた。
「全く…何年一緒に居ると思ってるんだか」
「はは、そりゃそーだ。まぁ…どんなタイプが好みなのか、純粋に気になったのもあるけど――」
立ち上がる彼の背中を目で追って。
「…お前ら色々こじれてそうだったから、さ」
振り返った、その表情。言外に『大丈夫か』と問われて薄く笑う。
「……もう、平気だよ」
心は決まったから。
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