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174.
散らかした机を片付け終わって、ミウちゃんと戯れる。ふと思い出すのはさっきの言葉。
『結婚まで考えてた相手が、居たよ』
正直、意外だった。
彼にそういう考えがあったことも、結婚まで至らなかったことも。
ため息をつきそうになった時、玄関から扉の開く音が。
「後片付け、任せてごめん」
部屋を見渡して苦笑いする彼に首を振って、立ち上がった。
「……さっき、言ってた人とは」
「うん?」
「結婚、しなかったんですね」
呟きを拾って、一瞬驚いたような表情を見せる三井さん。
「あー…振られちゃって」
それからあっという間にこんな歳だ、とぼやく姿はどこか憐憫を誘うもので。
「美人だったし、俺じゃなくても引く手あまただよ…きっと」
「…今は、居ないんですか?付き合ってる人」
何気ないふりを装って問いかけながら、靴を履く。機会があれば聞こうと思っていた、というのも変な話だけれど。まだ自分を好きか訊ねるよりは気が楽だった。
「そうだね、今は独り。ミウが恋人って感じかな」
穏やかな彼の言葉にひどく安心して。思わず緩んでしまった頬を引き締めながら向き直る。少し迷って、思うままを口にした。
「三井さんは…今まで俺が出会ってきた中で、一番素敵な人ですよ」
言ってしまってから猛烈な恥ずかしさに襲われて、そそくさとドアを開ける。
「…すみません、お邪魔しまし―――っ、!?」
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