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前に進めたはずの体が動かない。次いで感じる、低めの温度。 「え……っ、あの…!」 腰に回された腕は紛れもなく三井さんのもので。突然の行動に慌てる俺へ降ってきた、掠れ気味の声音。 「ごめん…少しだけ、このままで居させて」 もう訳が分からない。 背中の彼を窺うこともできずに、ただじっとしていると。腕の力がより一層強くなった。 「…かえで、くん」 「は、はい…?」 好きな相手に背後から抱きしめられるこの状況。許容量をオーバーした羞恥に、声が裏返らないよう必死だ。 「……うん、ありがとう」 ふ、と首筋に触れた吐息混じりの笑み。 離れた体温を振り向いても、変わらず落ち着いた表情を浮かべるだけ。問いただすこともできず、取りあえず外へ出た。 「今日は楽しかったよ」 「いえ、こちらこそ…」 何となく腑に落ちないまま挨拶をして。 閉まる扉の隙間から届いた言葉に、愕然とした。 「それじゃあね、――…芹生くん」

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