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176.
最後のあれは、自分の聞き間違いかと悩むこと数日。
(……でも、やっぱり)
芹生くん、と。呼ばれた。
これはいよいよお払い箱だろうか。
いくら楽観的に考えようとしても、痛む胸は誤魔化せなくて。
「悪い、お待たせ」
現れた細田に微笑んで首を振る。その様子を眺めたかと思えば、彼にしてはやや乱暴に椅子を引いて座った。
「え…なに、機嫌悪い?」
「……無理して笑うな」
きょとんと見つめる俺の頭を撫でて、ぶっきらぼうに言い放ったその意味。
理解した瞬間にじわりと熱くなる目頭はどうしようもなかった。
「…で、落ち着きましたか?」
頬杖をついて悪戯っぽく笑う姿に、少しの羞恥心を煽られながら頷く。友達とは言え成人した大人が泣くところを見せるなんて。
「ごめん…」
「少しはスッキリしたなら良いけどさ」
回るストローと氷を見つめながら口を開く。上手く話せる自信はない。それでも、細田なら分かってくれる気がした。
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