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どうしてそのまま送り出してあげられなかったのか。 (…あんな、こと。言うから) 触れるつもりはなかったのに。最後だ、と言い張る自分に負けてしまった。 「おはよ、ルイ」 目を細めたハルに軽く手を上げる。適度な喧騒が耳に心地よい。 そういえば居酒屋は久しぶりだとぼんやり考えるうちに、運ばれてきたビール。乾杯してしばらく、切り出したのは向こうだった。 「…で?今日は何のお話ですか」 分かりきっているくせに訊ねる笑顔が憎らしい。ため息をついて口を開く。 「友達…も、やめた方が良いのかな」 誰と、とは言わない。それでも察してくれたのか、静かに目を細める様子を眺めた。 「普通の大学生ならまだしも…わざわざ男で、しかもホストの俺が友達で居たら…色々、こう……悪影響があるかもしれないと思って」 反応のないハルに焦れたわけじゃない、けれど。言い訳するように続けたそれは、半分が本当。 「…他の理由もあんだろ」 苦笑しながらぼそりと落とされた言葉に、やっぱりお見通しかと頭を掻く。 「近くに居たら、諦められない」 簡潔に告げてジョッキを傾けた。

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