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179.
自分とは住む世界が違うと思った。
これ以上、惹かれる前に―――…
何度そう考えただろう。
今となってはもう、無駄な努力でしかないけれど。
日に日に募る想いを持て余していた、ある日の夕方。
『……と、言うわけで、今日は華の歌舞伎町にやって参りました!』
付けっぱなしのテレビから流れ出す声に、思わず箸を止める。
『休日ということもあって大勢の方が歩いていらっしゃいますね~』
こちらのお店です、とリポーターが仰ぐ場所は。
「……えっ」
俺も何度か訪れた、そう―――
『ようこそ、Grand Jewelへ』
ずらりと並ぶキャスト達。オーナーの次に進み出たのは。
『…初めまして、ルイと申します。以後お見知りおきを』
まるで執事のような立ち居振る舞い。しかし彼にしてみたら何の違和感もなく。
やはりと言うべきか、僅かに頬を染めた女性リポーターを柔らかく見つめる亜麻色の瞳。
痛む胸を感じながら、静かに箸を置いた。
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