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いくら考えてみたところで答えは出なかった。
勘違いだと言い切ることもできず、かと言ってあれが俺のことである証拠もない。
(…聞けば、良いんだろうけど)
本を並べる手が止まる。いつから俺はこんなに臆病になってしまったのか。
ため息を吐きかけたその時。
「うわ、これBLじゃん!」
「えー何、ホモ?」
思わずびくりと身を竦ませる。向かいの棚には男子高生2人の姿が。
「ホモと言えばさー…俺この前コクられたんだわ………男に」
「げっ……マジ!?」
沈んだ様子の声に、隙間からそっと伺い見れば。
マンガを片手に浮かない顔のイケメンと、苦笑する友達もこれまたイケメン。
何なんだ…と頭を抱えたくなる状況の中で、なおも話は続く。
「部活の後輩だから邪険にできねえけど…でも俺やっぱ女の子が好きだからさ。いくら可愛くたって男は無理」
「まーな。俺もちょっと男とか考えらんねえわ」
去っていく足音を聞きながら、手にする本を抱え込んだ。
(…普通はそう、だよな)
不思議と落ち込んでいない自分に気付く。
どこか頭の片隅では分かっていたから。
これが普通の恋愛ではないこと。そもそも恋愛にすら成り得ないかもしれないこと。
割り切った上で、やっぱり好きだと顔を覆う。
(言うだけ言って……後はどうにかなる、はず)
大丈夫、膨らみかけていた勇気はしぼんでいない。
深呼吸して、目の前の仕事に取り掛かった。
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