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「難しい顔してどうしたの?ルイ」 覗き込んでくる彼に瞬いて、嘆息した。緩く首を振れば細まる瞳。 「リンさんは、その…男性とお付き合いして後悔したこと、ある?」 そうねえと考え込むこの人には、確かパートナーが居たはず。固唾を飲んで見守る中、発された言葉は。 「アタシはないけど、向こうから言われた経験ならはあるわよ」 「…と、言うと?」 「つい最近別れた人がね、最後に残した台詞。『やっぱり男なんかと付き合うんじゃなかった』だって。ほらアタシ、見た目はこんなじゃない?だからイケると思ったんだけど…ふふ」 寝耳に水とはこのことか。 鏡越しに映る双眸が揺れていて、無意識に唇を噛んだ。 「そんな痛ましい顔しないでよ、今はもう平気だから…ね?」 「…今度飲みに行こう」 肩に置かれた手を触りながら見上げる。ふ、と泣きそうな顔で笑ったリンさん。 彼は本当に綺麗だし、一見すると完全に女性だ。その上職業は美容師。これだけの条件が揃っていながら同性とは上手く行かない、と来れば。 (……俺じゃあ、無理かな) きっと、幸せにできない。性別も職業も、恨み言に替えるつもりはないけれど。 『諦めるな』と真摯に視線を向けてきたハルには申し訳なく思う。 沈黙の訪れる室内で、静かに目を閉じた。

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