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187.
一服してくる、と個室を後にしたは良いものの。店前まで出て思わず座り込む。
(…多分、俺は馬鹿なんだろう)
あの場で首を縦に振っていれば。先のことを何も考えずに、ただ自分の気持ちを優先させていれば。
友達なら良いかと問うてきた、その眼差しが脳裏に蘇る。
あの澄んだ瞳を汚してしまうのが、怖かった。
それなのに。否と答えなかったのは、俺の弱さと甘えだ。
肺が空になるまで息を吐くと、煙草の箱に手を伸ばす。思ったよりも軽いそれを覗けば笑ってしまった。
(期待してたってこと、か…)
そうは言いながらも、どこかで好意を望んでいた…と。相手の態度で察してしまう能力を培った職業に、恨みはないけれど。
(……あほらしい)
俺と付き合ったところで、幸せに出来る自信なんてない。彼に告げた言葉は心からの本音だ。
それよりもクリスマスに会った相手と一緒になる方がどれほど良いか。
ため息と共に、中身の入っていない箱を握り潰した。
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