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189.
動揺しつつ部屋に入って、買い物袋を片付ける。
「…どうぞ」
「ありがとう」
ふわりと微笑む彼女は、どこからどう見ても素敵な大人の女性だ。
ルイさんの前にもコーヒーを置くが、こちらは反応なし。ひたすらに組んだ手元を眺めている。
「ええと…じゃあ自己紹介、するわね。私は佐々木 瑠依 。美容部員として地方を転々としていたんだけど、今回東京に戻って来られたから…晄にも挨拶しておこうと思って」
そこでルイさんに視線を投げると、深いため息をついて立ち上がった。
「…ごめん、芹生くん。今日は帰ってもらえるかな」
「あ……はい」
元よりそうするつもりだったとは言え、先に告げられてしまうと何とも物寂しい。
「じゃあ下まで送って行くわ。車にも忘れ物しちゃったし」
同じく腰を上げた佐々木さんを見やり、何か物言いたげな目をしたルイさん。しかし口を開くことはなく、黙って頷いた。
「…芹生くん、だったかしら?」
エントランスまで下りた時、前を行く彼女が足を止める。
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