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190.
「……はい」
やや警戒しながら、彼女に倣って足を止める。近寄って来たところで初めて気付く、同じ高さの目線。
「もし良ければ、連絡先…交換しない?」
首を傾げる佐々木さんの意図は読めないけれど。さらり、と肩を流れる艶やかな髪。自分とは違う性別を意識させられて、思わず視線を落とす。
「離れてた期間が長かったから…晄のこと、教えてもらえないかと思って」
高圧的でもなく、かと言って媚びるわけでもなく。ただ真摯に響くその声音には好感が持てた。
「…分かりました。俺で良ければ」
ほっとしたように笑う雰囲気が伝わって来る。お礼と共に届く甘やかな香りは、どこかで嗅いだことのあるもの。
エントランスを後にして、思い出す。
あれは、ルイさんの匂いだ。
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