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191.
「……芹生くんは?」
「さっき帰ったわ」
そう、と頷く俺を一瞥して再び腰を下ろした―――瑠依。
「…この部屋、やっぱり同じ匂いね」
静かに目を閉じる、その呟きには返事を返さない。代わりに空気へ溶けたのは、ずっとしまい込んでいた疑問。
「どうして――…黙って消えたんだ」
これだけの時が経っても苦しく響いた弾劾に、ため息を乗せる。
「…あの頃の私と居ても、あなたは幸せになれない」
どこかで聞いたようなセリフ。思わず彼女を凝視してしまう。視線を受け止めて淡く微笑む、薄い唇。
「ねぇ……好きよ、晄」
ひそりと忍び込む好意はどこまでも甘美を纏って。遠い昔が思い出される。
自分と同じ香りを漂わせる、この人は。
「…じゃあ、なんで……!」
唯一、結婚まで考えていた相手。それなのに。
「仕事先のホームページ、見たわ。私と同じ名前なのね――…『ルイ』さん?」
含みのある言葉と、見透かすような瞳。逃れるように視界を覆ったところで、浮かぶのは空っぽになった香水のビン。
「…まだ、あの香水…使ってるってことは」
―――期待しても良いのかしら。
楽しそうに弾む声。扉の閉まる音。
いっそ、消えてしまいたいと、思った。
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