192 / 330
192.
「芹生、お前どうした?」
何が、と答える声の酷さに笑ってしまう。
そんな俺を見て訝しげに眉を潜めた細田。少し乱暴に頭を撫でられて、視線を向ける。
「…顔色酷いぞ」
顔の表層だけで笑っている状態に気付いているのかどうか。ため息と共に背中を叩かれた。
「この授業で終わりだろ?出席表書いとくから、もう帰れ」
有無を言わさぬ強い口調で告げられてしまえば、異を唱えることが出来なくて。
のろのろと帰り支度を始めてしばらく、ふと手を止める。隣の様子を窺ってから切り出した。
「……好きな人の、さ」
「んー」
「少なからず深い関係だった女性に会うのって、辛い」
「…付き合ってたってこと?」
頬杖を付きながらこちらを見やる彼は、気遣わしげな表情で。緩く首を振って付け足す。
「直接聞いたわけじゃない、けど。多分…そう」
「……苦しいよな」
「え…?」
きっと生返事とばかり思っていたのに、同意する彼の声もまた沈んで行く。
「…まあ、俺の場合は相手も男だけど」
「何それ初耳」
「初めて言ったからなー」
詳しく追求しようとした俺を遮り、帰れと手を振る。どうにも腑に落ちないまま教室を後にした。
ともだちにシェアしよう!