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「突然だったのにありがとう、芹生くん」 「いえ…今日は暇だったので」 気にしないでください、と笑えば頷く佐々木さん。 ビールで乾杯をして。先に切り出したのは彼女からだった。 「…それで、晄とはどこで知り合ったの?」 何となく。佐々木さんが彼を呼び捨てにする度に痛む心は自覚していた。 「ええと…グランジュエルの近くにあるコンビニでバイトしてたんです」 「あら、あそこ採用基準厳しいのに?まぁ芹生くん綺麗だものね」 敏感な分野に触れられて思わず笑みが引き攣る。 そういえば、ルイさんは俺の容姿について一度も口にしなかった。綺麗だとか、可愛いだとか。 「…正直なところ」 「はい?」 ぼんやり思考に耽っていた俺は、続く言葉で現実に引き戻された。 「……ただの友達、ってわけじゃなさそうね?」 急激に気温が下がったような気がする。冷える背筋。ごくりと唾を嚥下して、目の前の女性を見つめた。 「ああ、勘違いしないで。別に貴方の事が嫌いなわけじゃないわ…出来れば仲良くなりたいくらい」 浮かべる微笑みは、紛れもなく好意に満ちたもので。ふと、真逆の敵対心を剥き出しにしてきたミカさんを思い出した。 「ただ……それ以上に、晄を愛しているの」 一瞬、息が詰まった。逸らせない程の強い視線に絡め取られて、遠くなる周囲のざわめき。 「このまま晄と進んだとして、貴方は彼を幸せに出来る?」 佐々木さんが窓の外へ顔を向け、霧散していく重圧感に深呼吸を重ねた。彼女に倣って通りを見れば、子供を肩車する父親と、それに寄り添う母親。 「……彼を、開放してあげて」 押し付けるような口調ではないのに、それはもはや命令に近い響きだった。

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