194 / 330
194.
理論的に諭す人ほど、怖いものはない。
あの日からしばらく。街がバレンタインの雰囲気で浮つき始める頃。
俺は1人、自分の部屋でスマホを握りしめていた。
(……懐かしい、なぁ)
画面を指でなぞりながら、思わず目を細める。友達という立場だったけれど、隣で過ごした記録。
数々の写真を全て消す決断をするには、勇気が足りなくて。
(でも…正論だった)
本当にルイさんを幸せに出来るのは、きっと佐々木さんだ。いや、彼女以外の可能性もある。だけど。
少なくとも、俺じゃない。
(…女の子に、生まれてれば)
もっと一緒に居られただろうか。
詮無いことを考えた、と自嘲気味に笑う。
1枚だけ残した海の写真。夕陽に染まるそこはあまりにも綺麗で、印刷してから削除しようと思った。
部屋の片隅に置いてあるイルカとカピバラのぬいぐるみ。ふと目に入った2つを抱き上げて顔を埋める。
心なしか寂しそうな表情に見えて、自分の精神状態は重症なのかもしれないと思い知らされた。
「…大丈夫だよ、捨てないから」
せめてこれくらいは許してほしい。
そのまま部屋を出ようとした時、テーブルの上でスマホが着信を告げた。
ともだちにシェアしよう!