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理論的に諭す人ほど、怖いものはない。 あの日からしばらく。街がバレンタインの雰囲気で浮つき始める頃。 俺は1人、自分の部屋でスマホを握りしめていた。 (……懐かしい、なぁ) 画面を指でなぞりながら、思わず目を細める。友達という立場だったけれど、隣で過ごした記録。 数々の写真を全て消す決断をするには、勇気が足りなくて。 (でも…正論だった) 本当にルイさんを幸せに出来るのは、きっと佐々木さんだ。いや、彼女以外の可能性もある。だけど。 少なくとも、俺じゃない。 (…女の子に、生まれてれば) もっと一緒に居られただろうか。 詮無いことを考えた、と自嘲気味に笑う。 1枚だけ残した海の写真。夕陽に染まるそこはあまりにも綺麗で、印刷してから削除しようと思った。 部屋の片隅に置いてあるイルカとカピバラのぬいぐるみ。ふと目に入った2つを抱き上げて顔を埋める。 心なしか寂しそうな表情に見えて、自分の精神状態は重症なのかもしれないと思い知らされた。 「…大丈夫だよ、捨てないから」 せめてこれくらいは許してほしい。 そのまま部屋を出ようとした時、テーブルの上でスマホが着信を告げた。

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