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バレンタイン。今年は何を作ろうかと、本のページを捲りながら悩む。 (トリュフはやっぱり定番かな…でも誰かと被りそう) 去年を思い出しながら写真を眺めて、ふと手が止まった。そこにあるのは――― (……フォンダンショコラ、か) あの時。彼が浮かべた表情が忘れられない。心からの笑顔と優しい眼差し。 不意に息苦しさを感じて、胸元を掴む。 大きく深呼吸をしながら落ち着こうと努めた。それなのに、瑠依さんの横に並ぶ姿が自然と浮かんで来る。 (…やっぱり、無理だ) すぐには忘れられないことも、いくら想っても届かないことも。 叶わない。敵わない。 「っ、ふ……」 ぽたりと垂れた水滴がページに染みを作る。慌てて目元を拭っていると。 「……え、っ」 着信。それも、 「ルイ、さん…」 まさに今思い描いていた人物から。 普段なら絶対に出ない。敏い彼のことだから、何かを勘づかれても困る。 でも―――… 「…はい」 冷静な判断なんて出来なかった。何の用事なのかも考えなかった。 ただ、声が聞きたい。 その一心で通話ボタンを押した。

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