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199.
バレンタイン。今年は何を作ろうかと、本のページを捲りながら悩む。
(トリュフはやっぱり定番かな…でも誰かと被りそう)
去年を思い出しながら写真を眺めて、ふと手が止まった。そこにあるのは―――
(……フォンダンショコラ、か)
あの時。彼が浮かべた表情が忘れられない。心からの笑顔と優しい眼差し。
不意に息苦しさを感じて、胸元を掴む。
大きく深呼吸をしながら落ち着こうと努めた。それなのに、瑠依さんの横に並ぶ姿が自然と浮かんで来る。
(…やっぱり、無理だ)
すぐには忘れられないことも、いくら想っても届かないことも。
叶わない。敵わない。
「っ、ふ……」
ぽたりと垂れた水滴がページに染みを作る。慌てて目元を拭っていると。
「……え、っ」
着信。それも、
「ルイ、さん…」
まさに今思い描いていた人物から。
普段なら絶対に出ない。敏い彼のことだから、何かを勘づかれても困る。
でも―――…
「…はい」
冷静な判断なんて出来なかった。何の用事なのかも考えなかった。
ただ、声が聞きたい。
その一心で通話ボタンを押した。
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