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『…はい』 「突然ごめんね、少し話せるかな」 『大丈夫ですよ』 いつものやり取り。ごく短いそれに、僅かな違和感を覚える。 「風邪引いた…?」 『……違い、ます』 耳に届くのは少し水気を含んだ鼻声。思い当たる事例を述べても、返ってくるのは否定だった。 『…ご用件は、何でしょうか』 「んー……」 微かに揺れる声を聞いて、少し考え込む。 手酷く傷付けた自分が聞いて良いことなのかは分からない。単なる思い過ごしかもしれない。 ならば、 「特に用事はないんだけど…声が聞きたかったから」 心の琴線に触れた感覚を信じて、本来の目的をしまい込んだ。目を瞑りながら電話口の向こうに意識を集中させると。 『っ…そ、う…ですか』 「…ねえ、何かあった?」 予感は的中。先程よりも大げさに揺れる声音は心配するには充分で。 話せるならいつでも聞くから、と。つい今までの癖で優しい言葉を掛けてしまいそうになった。 だけど。きっとこれは、彼にとって残酷な善意に違いない。 「…溜め込まないで、周りに相談するんだよ」 その役割が俺ではないことも、誰かが心配そうに眉を下げることも。考えると少し息苦しくなるけれど。 素直に応じる言葉を聞き届けて、通話を終えた。

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