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202.
珍しい人物から連絡があったのは、その数日後。
「…どうも。お久しぶりです」
頭を下げる彼は、細田くん。
記憶よりもずっと良い顔つきになっている。何か身辺に変化があったのだろうか。
「お仕事前に呼び出してすみません。手短に終わらせるんで」
一度手元に落ちた視線が、今度は俺に据えられる。
「…バレンタインのこと、ハルさんから聞きました。で、なんとなく気になって芹生に探り入れたんです」
続く言葉が予想できて、静かに目を伏せた。友達思いの彼が腹を立てるのは当たり前だ。
「………正気ですか」
語気は決して荒くない。それに反して氷点下の声音で叩きつけられる一言は、俺の頭を揺さぶるのに充分だった。
「幸せそうな様子、見るなんて…苦しいに決まってる。でも、あいつは…それでも良い、って……!」
振り絞るように紡がれる事実が、心を抉っていく。歯を食いしばる細田くんの向こうに、黒髪の彼が見えて。
いっその事ここから逃げ出したくなった。
「…あんたは。あいつを…芹生を、どうしたいんですか…?」
困ったように揺れる瞳を受け止めて考える。
芹生くんに何を求めているのか。
自分はどうしたいのか。
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