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「簡単な物ばかりで申し訳ないけど…」 苦笑しながら出される料理はどれも簡単の域を越えている。本気で謙遜している様子に、言葉を失った。 「…また上達したね、料理」 まるで昔を懐かしむように目を細めるルイさん。抱いていたミウちゃんを床に下ろし、テーブルに近寄ってきた。 「そりゃー誰かさんが料理出来ませんからね?花嫁修業よ」 ふふ、と悪戯っぽく笑いながら傍らの長身を見上げて。虚をつかれたように目を見開く彼は、それでも何も言わなかった。 「……冷めないうちに食べようか」 「どうぞ、召し上がれ」 いただきますと手を合わせて口に運んだ鶏肉は、決して水分量が多いわけでもないのに噛むそばからほろほろ崩れていく、という何とも素晴らしい調理加減。味付けも完璧で、思わず感嘆する。 「美味しい……」 「本当?お口に合って良かった」 心から安堵した様子の佐々木さん。非の打ち所がない彼女のことを考えると、やはり落ち込んでしまうのが人間というもの。 料理に罪を被せるわけにもいかず、黙々と箸を動かす。 「そういえば…どうして今日は呼んでくださったんですか?」 邪魔でしかないだろうに、と続く言葉を飲み込む。目の前で顔を見合わせた2人。 「晄がお世話になった人だもの。お礼をしたいと思ったのよ」 それが自分にとって当然の勤めと言わんばかりの彼女は、とても輝いて見えた。このままずっと寄り添って行く未来が容易に想像できて、曖昧に微笑む。 ちらりとルイさんの表情を窺うも、そこから何か読み取ることは出来なかった。

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