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振り返ると、落ちた箱を拾う彼が目に入った。次いで上げられた顔を見た瞬間、背筋が冷えるような感覚。 「…すみません、このあたりでお暇しますね」 「あら、もう帰っちゃうの?」 その瞳で。表情で。言葉よりも雄弁に語る彼からは考えられないほど。 (……人形) 酔っ払ったリンさんと並んで歩く俺を前にして、瞳に宿ったのは『怒り』。翔と何処が違うのか聞かれて答えられなかった時は『悲しみ』。 それなのに。 「じゃあ玄関まで送るわね。……晄?」 隣の瑠依が不思議そうに首を傾げる。つられて腰を浮かせた俺を眺めて、薄く笑う芹生くん。 「…お邪魔しました」 機械的に曲げられた唇の両端、細まる双眸。それとは裏腹に、妙な響きの残る挨拶。 ひやりとした得体の知れない物が心を覆い、まるで地に足が縫い止められたような錯覚を起こす。 「そういえば、その箱は…?」 「…バレンタインなので、お菓子を作ってきたんですけど。さっき落としてしまったので持って帰ろうと思います」 「ええ、もったいない…気にしなくて良いのに」 「いえ…多分崩れてますから」 苦笑する彼と、後を追う瑠依が玄関へと遠ざかって。ソファーに再び身を沈めた。

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