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何故あのタイミングで。 端正な相貌の効果もあり、さながら人形のように見えた。 怒っているのか、悲しんでいるのか。それすらも読めない表情。 「芹生くんが作ったお菓子、食べたかったわね」 「…うん」 「コーヒー、おかわりする?」 本気で惜しがっているような様子の瑠依に頷きかけて、自分で淹れようと台所へ向かった。 ドリップしながら、ふと先程の状況を思い出す。 (確か、このあたりで…) 芹生くんが箱を落とした場所。同じ視点に立った瞬間。 「………っ!」 自分がしたこと。頭の中でフラッシュバックする、瑠依の言葉。 (まさか、そんな……) やけに鼓動が大きく聞こえる。背後で鳴り響くのは、まるで警報のような湯沸かし器の音。 震えそうな手を強く握って、玄関へ駆ける。 「え…晄!?」 「ごめん、ちょっと出る!」 慌てて追って来る瑠依に言い放って、家を飛び出した。

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