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エレベーターで自宅へ戻りながら考える。 芹生くんが箱を落とした場所。あの位置からだと、まるで俺と瑠依が―――そう、キスをしているように見えるはず。 (…まさか) わざと、仕向けた―――? 頭の切れる彼女のことだ。それくらい造作もない。けれど、同時に正義感が強く曲がったことが嫌いでもある。 本当に偶然だったのだろう。その、人として真っ直ぐな部分に惹かれた過去を思い出しながらため息を吐いて。 「……ただいま」 リビングへ入ると、テレビから視線を外す瑠依。手元の箱に気付いているだろうに、触れることはなく。 「お帰りなさい」 足元に擦り寄ってきたミウを抱き上げて、ソファーに腰を下ろす。先程の懸念が残っているのか、無意識に凝視してしまったようで。 「…どうしたの?」 眉を潜める彼女。ミウを盾にして誤魔化せば、相変わらずねと笑われた。 「あ、そうだ…この前お母様から電話があってね」 「え…?」 お母様。自分の親をそんな風に呼ぶ人は少ないだろう。この場合、思い当たる人物は。 「落ち着いたら晄と一緒に遊びにいらっしゃい、って」 久しぶりに顔が見たいらしいのよ、と。 上機嫌で続ける彼女がまるで見知らぬ人のように感じた。 「…話した、ってこと?」 「何を?…ああ、また付き合い始めましたとは言ったけど」 俺の両親は瑠依をえらく気に入っていて、学生時代も何度か挨拶で顔を合わせている。別れた時は怒られるやら悲しまれるやらで大変だった、それはもう本当に。 「……今度は結婚ねって言われたわよ、ふふ」 幸せそうに目を細める彼女の言葉。衝撃で色を失くす世界と共に、絶望の響きが聞こえる気がした。

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