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216.
実家に戻った翌日。
「…それで、話って?」
隣に座る父親を見やり、切り出したのは母親。
「母さん、瑠依と電話しただろ?佐々木瑠依」
「長く続いた子でしょう?また付き合い出したって聞いたけど…」
「…あの人とは、結婚しない」
しん、と静まり返る室内。気付けば口内はカラカラに乾いていた。
「他に、決めた相手が居るのか?」
ゆっくり問うのは父親。自分と似た深い瞳で捕えられ、まるで全て見透かされているような気分。
「…居る。だけど、その人とも結婚はしない―――いや、出来ないんだ」
「不倫か?」
本気で眉を潜める隣の兄に首を振った。
瑠依と別れるだの結婚しないだの。そこまでの話をすることに比べれば、これから言おうとしている事実の方がよほど重く、緊張する。
「その人は……男、だから」
ヒュッと息を飲んだのは、母親か。気付けば視線は下がり、3人がどんな表情をしているのか知る術 もない。
「え…何、お前……え…」
狼狽える兄も言葉が続かない様子で。申し訳なく思いながら、ぎゅっと目を瞑る。
「…顔を上げなさい、晄」
どこまでも静かに響く声音。
さして変わった所のない父親と、様々な感情が綯い交ぜになったような母親。
「…なんとなく、分かってたわ」
笑う母親が少し疲れたように見えて、もう若くないことを感じる。自覚した瞬間、ますます痛む心。
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