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218.
聞き終えた彼女は深いため息をついて、第一声。何が飛び出して来るのか身構えていると。
「…行動力もついたのね」
「え?」
「彼……芹生くんのおかげかしら」
唖然とする俺を尻目にビールをおかわり。ふ、と笑ったその顔はどこか晴れ晴れとしていた。
「…ヨリを戻して、結婚まで考えたのは本当。でも…」
―――勝てないって、思った。
全てが込められている、主語のない一文。見つめる先の彼女は再び口を開く。
「よっぽどあの子が大事なのね。気付いてた?一緒に居る時、いつも私の向こう側に彼を見てるのよ…貴方」
「…ごめん」
「謝られたら余計に惨めだわ」
拗ねたように呟いて、運ばれてきたビールをほとんど空にする。
「あーあ、この歳で彼氏探しか…見つかるかしら」
「…大丈夫だよ」
こんなにも素敵な女性を放っておくはずがない。あまり言うとまた睨まれかねないけれど。
「ぜーったい晄より良い人見つけて、幸せになってやるんだから!」
酔いが回ったのか、俺を指さして意気揚々と宣言する彼女。
「…ちゃんと幸せになりなさいね。芹生くんと、2人で」
幾分か落ち着いた声のトーン。いつになく真剣な瞳に誓う。
「約束する」
「……うん」
満足そうに頷いて立ち上がった彼女は少しよろめく。慌てて支えようとするも、やんわり断られて。
「大丈夫、1人で帰れるわ。じゃあね……三井さん」
ひらりと手を振り消えて行く。
最後まで、大人だった。
「…ありがとう」
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