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楓くんが迷わず選んだ香水。 どんなコンセプトで創造されたのか、昔どこかで聞いたことがある。自分の記憶違いでなければ、と。店員に確認して顔を覆いたくなった。 『周囲を魅了する人に相応しい香り』 本人に言おうか言わまいか悩みながらテーブルへ戻る。すると、離れた所で熱心にケースを覗く姿が。 呼びかけようと口を開いて、やめた。 「…ごめんね、お待たせ」 「いえ、大丈夫ですよ」 頭越しに見えたのは、シンプルなデザインながら高級感漂うネックレス。センスが良い、というより目のつけ所が似ているのか。 そういえば来週の日曜日は彼の誕生日だと思い出して。もう一度ケースに目をやり、店を後にした。 「お昼だけど…どこかで食べて行く?」 「うーん…」 悩む素振りが途切れ、何か言いたそうに揺れる視線。伸ばした指で頬をくすぐると、緩んだ口から零れたのは。 「…もし、ご迷惑じゃなければ。料理…作らせてほしいです」 「俺の家で?」 こくりと縦に振られる顔。何をどう取って迷惑と考えたのか全く分からないけれど。 「楓くんの手料理、久しぶりに食べたいな」 ほっとしたように力の抜ける身体をすぐにでも抱きしめたくなって、誤魔化すようにエンジンを掛けた。 「あ…この前のフォンダンショコラ、美味しかったよ」 「本当ですか?良かった…」 色々あって伝えそびれていた、感謝の気持ち。隣で微笑む楓くんから無理やり視線を剥がしてハンドルを握る。 「食材買って帰ろうか」 「はい」 ふわふわした気分、という表現がぴったりだ。少し前の自分なら想像できなかっただろう。 変えてくれた彼を愛おしいと思いながら、いつものスーパーへ向かうべく車を走らせた。

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